
『十一ぴきのネコ』の稽古を終え、稽古場最寄り駅のガード下に、立呑屋があるのを見つけ、疲労の勢いでどたと入った。
おばさんが一人で切り盛りしている。
ぐると見回すと、店内に道頓堀や新世界の写真が貼ったある。
品書きを見ると、「串カツ」と書いてあり、ここが『大阪』をコンセプトにした立呑屋であることがわかった。
「失敗した」と、思った。
そもそも、東京の『大阪』をコンセプトにした飲食店に大阪人である私が満足した試しがないし、私の母は大阪で人気串カツ店を経営しておったのだから、串カツに関しては私ちょとうるさい。
とりあえずウーロンハイを頼んで品書きを見る。
串カツ各種の他に、一品料理の欄があり、そこで「おや?」と目が止まった。
『タイ風煮込み』というメニューがあるのだ。
「大阪コンセプトの店で、なぜ煮込みだけタイ風なのか、全くもって意味がわからないわ」と、なぜか女性風に思って、ウーロンハイを口に運ぶ。
常連客が一人、入ってきた。
嫌でも耳に入ってくるおばさんと常連客の会話を聞いていて、また「おや?」と思った。
おばさんに若干の訛りがある。
訛りと言っても、東北や関西といった日本の地方訛りではなく、片言の感じ。イーデスハンソンさんのような。
よーくおばさんを見てみる。
「ひょっとして…」
つたないタイ語で、おばさんに声をかけてみた。おばさんは、私のタイ語が下手すぎてか一瞬怪訝な表情を浮かべたが、次の瞬間ぶあっと表情を晴れさせて「あんた、タイ語しゃべれんのかね」と、とても嬉しそうに言った。やっぱり、おばさんはタイ人だったのだ。
大阪をコンセプトにした店のおばさんがタイ人というカオスにくらくらした。
芋の湯割りを二杯目に頼んだら、ジョッキで出てきた。
毒喰らわば皿までと思い、串カツを数本頼んでみた。
全然、悪くなかった。
多分、毎晩行くと思う。
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